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ユルク・フライ/七條恵子 インタビュー
アルバム「Les Signes Passagers」とフォルテピアノについて​

「私の音楽は修辞的とは言えず、劇的でもありませんが、背景にはそのような感情が潜んでいることがあり、恵子の演奏からはそれを感じ取れます。そうした感情は表面に現れなくとも、複数の音をフレーズに組み立てる手法の中から、時に輝きを放つのです」— ​ユルク・フライ

​「
現代に住む私たちの方に楽器がタイムスリップしたらどうなるのだろうと思ったのがきっかけです。ユルクとのコラボレーションは本当に素晴らしい時間でした。色々なことを話しつつ、本当に一から一緒に音を作っていく感じでした」— 七條恵子
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座間裕子(座間):まず、ユルクに質問します。七條恵子さんからこの作品をフォルテピアノ用に書いてほしいと依頼された時、どんな音楽を思い描きましたか?

ユルク・フライ(フライ):恵子と私は、長い間新作の構想についてやり取りを続けていたのですが、ある日彼女がメールを送ってきて、ある一つのアイデアを明確に提示し、それを進めようと提案してきました。私は最初、10分から15分程度の短い作品を考えていたのですが、恵子からの次のメールには、1時間ほどの長い作品を考えていると書かれていました。その時は、この作品がどんなものになるのか、まったく見当もつきませんでした。

でも、その後、どうやって曲作りを進めていけばよいのか見えてきました。 ちょうどその少し前に、5楽章からなる第4弦楽四重奏曲を完成させていたので、 複数の楽章からなる作品をもう一つ書いてみようというアイディアが、より明確になっていきました。とはいえ、複数の楽章から成る作品を書くという発想自体は、私にとってそれほど大きな飛躍ではありませんでした。私の近年の作品は常にいくつかのセクションやセグメントに分かれていたからです。 この曲ではその区切りが他の作品に比べてやや強調されているに過ぎません。そしてそしてまた、この新作は、全体としての形式における一貫性と区切りという両方のテーマにも触れています。

座間:この作品をフォルテピアノのために作曲する際に、現代ピアノのための作品を作曲する場合と比べて、特に意識した違いはありましたか?

フライ:私たちはよく、こうした初期のフォルテピアノを現代のピアノと比較しがちですが、音楽史における大きな飛躍は、チェンバロからピアノへの移行だったのです。そして私がこの曲を書いた際に特に念頭に置いていたのは、チェンバロからフォルテピアノへの移行によって完全に変化した情感性という点でした。こうした(楽器の)変化には常に共通点が伴います。フォルテピアノの世界へ踏み込むためには、チェンバロが持っていた最も魅力的で素晴らしい特質の一部を手放さなければならなかったのです。そしてその一方で、このフォルテピアノという新たな世界には、ピアニッシモや個々の音符のニュアンス、音符やフレーズの明るさや暗さといった、チェンバロにはなかった要素が存在します。楽譜にドラマチックな要素を一切記さずとも、例えば低音の和音の存在そのものが、劇的な響きを生み出す可能性すらあるのです。
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七條恵子とフォルテピアノ。アントン・ヴァルター(約1792年)のレプリカ、1995年ポール・マクナルティ製作、スタンリー・フーグランド・コレクション所蔵(FF-g3)(ユルク・フライ撮影)
座間:あなたは、フォルテピアノの音色と演奏において、特にどのような点に魅力を感じますか?

フライ:過去20年間に録音された私自身のピアノ作品の軌跡をたどることは、私にとっても予想外の魅力を発見できる旅であり、自分自身の音楽に対する新たな気づきをもたらしてくれるものです。つまり、私の音楽は時に非常にシンプルではありますが、同時に音と形式の豊かな可能性を探求しているため、その可能性ゆえに演奏するピアニストによって様々に違う、そして時には予想を超えた見事な結果をもたらすこともあるのです。

恵子は私の作品を本格的に録音した6人目のピアニストであり、彼女の音楽的個性と古楽器奏者としての経歴がこの録音に、これまでのどのピアニストによる録音とも違う独自性と唯一無二の特質をもたらしていると強く感じます。この録音がこれほど特別なのは、基本的に彼女の音楽性によるものです。そしてもちろん、楽器の音色も大きな要因です。

この初期の時代のピアノについては、私自身、聴き手としての立場からだけでなく、クラリネット奏者として室内楽でフォルテピアノと共演する機会を得ていたので、よく知っています。これらの楽器を聴いていると、初期の楽器製作者たちがどんな音を探求していたのか、その精神も感じ取れます。フォルテピアノはその後何世紀にもわたって大きく発展していくのですが、この初期の段階では、すべてがまだ非常に新鮮で、儚さを残しているのが感じられます。私たちの耳を楽しませるためだけに存在するかのようなこの楽器の音色に、私たちは驚嘆させられます。

座間:フォルテピアノに対する七條恵子さんの取り組み方について、どのような印象を持ちましたか?

フライ:私は恵子のモーツァルト作品の録音が大好きです。彼女はモーツァルトの音楽におけるレトリックやドラマティックな要素を強調しています。私の音楽は修辞的とは言えず、劇的でもありませんが、背景にはそのような感情が潜んでいることがあり、恵子の演奏からはそれを感じ取れます。そうした感情は表面に現れなくとも、複数の音をフレーズに組み立てる手法の中から、時に輝きを放つのです。彼女は常に楽曲の雰囲気の中に留まりつつ、同時に私が音楽を構築し旋律を探求してきた方法を体感させてくれます。そして私の音楽に潜む微妙な修辞的要素を掘り起こしてくれるのです。
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ユルク・フライと七條恵子、2022年「ノヴェンバー・ミュージック音楽祭」(オランダ・スヘルトーヘンボス)での公演終了後(川口成彦撮影)
座間:ユルク、貴重なお考えをお聞かせいただきありがとうございました。

次に、七條さんにお伺いします。なぜユルク・フライにフォルテピアノのための作曲を依頼しようと思ったのですか?

七條恵子(七條):フォルテピアノでモーツァルトやベートーヴェンを弾いていると、当時の作品の意味合いやテイストがくっきり現れ出てくるので、ある意味タイムスリップできるのですが、逆に現代に住む私たちの方に楽器がタイムスリップしたらどうなるのだろうと思ったのがきっかけです。現代に生きている演奏家として、歴史的パフォーマンスに携わっていても、やはり作曲家に電話して「ここはどういうイメージで書かれたんですか」とか「こんな感じに弾いて見ようと思うのだけれどどう思いますか」と聞くことはできないので、どこまでいっても疑問やディスカッションの種はつきません。ユルク・フライに曲を委嘱しようと思ったのは、現代を生きている演奏家としてこういった楽器に現代の言葉でどのように関わっていけるのだろうと思ったのがきっかけです。
座間:ユルク・フライの作曲や音楽のどんなところに興味を持ち、惹かれたのですか?

七條:ユルクのことは以前から知っていました。ユルクの音楽を聴いていると、音そのものの持つ息吹のようなものや、その可能性とか、沈黙や間の意味合いや色合いがすごく拡大されていく気がして、魔法にかかったような気持ちにさせられるのです。フォルテピアノのための新しい曲というのはどんなものになるのか私としては全く想像がつきませんでしたが、曲を委嘱しようと思った時、彼の名前が最初に浮かんできました。
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七條恵子、ブルッヘ・コンセルトヘボウでの『Les signes passagers』録音風景(2023年4月4日)(ユルク・フライ撮影)
座間:この作品「Les Signes Passagers」を実際に演奏してみて、どう感じましたか?

七條:楽器の構造上、フォルテピアノは発音が早く、くっきりしているので、外側へ向けてはっきりと言葉を発していくような、レトリカルな音楽を演奏することが多いです。楽器の特性として、この「よく喋る」特徴があります。音の立ち上がりがとても速いので、ピアニッシモのキャラクターのバリエーションをどのようにして広げていくか、というのが至難の技でした。外側へ向けた音楽ではなく、むしろ内へ内へと向かうか、もしくは言葉や単語ではない違うものの描写、というのがこの曲について思うことですが、「外へ直接向かわない音」を出そうとするコントロールが非常に難しかったです。

座間:録音セッションはユルク・フライの立ち会いのもとで行われましたが、このプロジェクトでユルクと共同作業をしてきた期間、準備や実際の録音の時も含めて、ユルクとのコラボレーションについてどのように感じましたか?

七條:ユルクとのコラボレーションは本当に素晴らしい時間でした。色々なことを話しつつ、本当に一から一緒に音を作っていく感じでした。
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2023年4月4日、ブルッヘ・コンセルトヘボウでの『Les signes passagers』録音後(ユルク・フライ、七條恵子、エリック・ボアソン、ハンス・クラマー、ミレク・クティニー、ウーター・ボアソン)
座間:ユルク・フライのフォルテピアノ曲の演奏についてお尋ねしますが、この演奏で利用した調律法は何でしたか? というのも、七條さんのサティのCDの解説をネットで読んでいたら、平均律ではなく「プリンス」というピタゴリア音律とミーントーンがブレンドされた調律法を選ばれたということで、今回のユルクのフォルテピアノ曲ではどのような調律法を使われたのかなとふと思いまして。
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七條恵子 - エリック・サティ ピアノ独奏曲集(1871年製エラール使用)(アコースティック・リヴァイブ 2020)
七條:調律について、すごく興味をお持ちなんですね!私は調律のスペシャリストではないので、どこまでわかりやすくお話しできるか少し心配ですが、私の体験をお話しさせてください。ユルク・フライの曲で使った調律は「equal beating victorian」という調律法です。平均律に近いですがちょっと違うみたいです。

座間:この調律は、ユルクが決めたのでしょうか? それとも七條さんの選択でしょうか?

七條:これは、この時調律してもらったHansと相談して、私が決めました。いつもHans(私のいつもお願いしている調律師さんです)と色々相談して、「例えば曲はこんな感じだよ」とか、クラシックのプログラムなら、「何調と何調の曲を弾くよ」などと説明し、Hansにいくつか調律のテンペラメントのアイディアを出してもらうのです。そうして、あれこれ相談しながら色々な調律を試して、最終的に一番しっくりくるものを選ぶ、という感じでやっています。

調律が変わるとあまりに印象が違って、今まで弾けていたものが弾けなくなったりすることもあります(笑)。その調律によって弾き方もかなり変わります。頭でこんな風に、と意識するわけでは無いのですが、やっぱり耳と体が反応するんです。面白いですよね!
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フォルテピアノの調律に取り組むハンス・クラマーと七條恵子
座間:それはとても興味深いです。さらに質問なのですが、ある曲を弾くときに「この調律ならぴったり!」と思う時は、具体的にどんな感覚を覚えるのでしょうか? 音楽との一体感や作曲家との一体感みたいなものか、あるいはただ単にホッとするとか、居心地の良さを感じるとか?

七條:これは結構言葉にするのが難しいのですが、私のイメージする曲想を、調律が助けてくれるということがよくあるんです。例えば、同じモーツァルトのプログラムをいくつかの違う調律で弾くと、ある調律では場所によって少しかっちりした印象に仕上がったり、別の調律ではもう少し流れるように弾きたくなったり、色々と感覚の違いが出てくるんです。多分ハーモニーの色彩感がどういう風に変化していくかによって、音楽の進み方が変わるのだと思うのですが、そこはもう本当に感覚の世界でしかないのですよね。ただ調律によって、すごくきれいなハーモニーがあったりすると、そのハーモニーが曲中に出てきたとき、「ここでこのハーモニーをちょっと味わう時間欲しいな」とか、そういうことはあります。でも大概はあっという間の出来事の繰り返しなので、曲全体としてどういう印象になっているか、弾いていて気持ち良いか、そうでないか、自分の思う曲想を助けてくれるイメージの調律か、などと考えて決めることが多いです。全然意識はしないのですが、私の場合、調律によってはテンポなども左右されることもあるみたいです。

座間:逆に「この調律は少し違う…」と感じた時は、その曲に対して(あるいはその曲を演奏することに対して)、具体的にどのような違和感を感じるのでしょか?

七條:違和感、となると、やっぱり曲のイメージに合わないとか、色が濃くで過ぎるところがあったり、逆に色が似通っていすぎてつまらなかったり、調律のしわ寄せが汚すぎて曲中のあるハーモニーが弾きたくない、とか、そういうことでしょうか。あと、なぜかわからないけど弾くのがしんどい、みたいな時もあります。ただ、弾きやすくはないけど曲想にぴったり、ということも今まであったので、一概に弾き易いか弾きづらいかでは判断できないのですが(サティがそうでした。)

座間:七條さんが調律の違いを意識するようになったには、いつ頃からでしょうか?

七條:フォルテピアノを弾き出してからだと思います。最初は全然わかりませんでしたが…。あと、ミーントーンのオルガンを弾いたとき、音が銀色にキラキラしているように見える時があったんです。これはオランダのアルクマールにある教会のミーントーンオルガンで、学生時代オルガンのレッスンを少しとっていた頃の話です。なんかこう書くと変な人みたいですが(笑)、本当にやっぱり調律って色彩感とか立体感なのかなと思います。音とかハーモニーが急に浮き立って、生き物のようになるというか。その生き物たちがお互いみんな自由にいられて、音楽と喧嘩しないバランスがあるみたいで、調律を選ぶ時って、ただそれをなんとなく探しているような感じです。

座間:それは面白いですね!私もミーントーンや平均律以前のルネッサンスやバロック時代の調律にはとても興味があり(今回同時リリースされるIvan Vukosavljevićの「Slow Road」(パイプオルガン曲集)もミーントーンを採用した作曲ですが)、ミーントーン調律の古楽器向けに作曲された当時の曲は、その調律の楽器で忠実に演奏されると、平均律の楽器ではフラットで凡庸な印象になりがちなフレーズでも、生き生きとした鮮やかな生命感やピュアでストレートに訴えかけてくる感覚や、どこか自然界と一体になるようなオーガニックな感覚が生まれるような気がします。

七條:私も全く同感です!
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七條恵子「モーツァルト:ピアノ・ソナタ第5、8、9番、他」 (Bridge Records 2021)
座間:モーツァルトはミーントーンを好んでいたという話を読んだことがあったのですが、七條さんの2021年のモーツァルトのアルバムの調律は何でしたか?

七條:モーツァルトのアルバムの方は、前回のCDではNomen 1/6 comma modified meantone という調律でした。ミーントーンというと、3度を中心にきれいにとっていく、という感じですが、結構和音によっては調律のしわ寄せが大きい場所があるので、弾けない調性があったりするものもあるのですが、この調律は、私の知り合いが自分で作ったものらしくて、その方は主に18世紀の前半のレパートリーに使ってみていたらしいのです。その方の家の楽器をHansが調律していて、私のモーツァルトのレコーディングの時に、ちょっと面白そうだから使ってみようか、ということになったんです。Hans自身は、試してみるまでは、モーツァルトにはちょっと色々合わないかなと思っていたそうです。クラシックのレパートリーになると、転調もあちこちいくようになるので、ヴェルクマイスターなどのバロックのチューニングに比べると、もうすでに割と平均律に近いものが多かったようです。

私は結構和声の色がくっきり出るのも面白いと思うタイプなのですが、あまりくっきりすぎても曲に合わないことがあって、そこは好き好きで選んだり、最後には、なんというか「感覚」です。ただ、このNomen 1/6 comma modified meantoneというのはくっきりしたミーントーンというよりはもっとなだらかな調律に近い感じがしていました、もちろん平均律ではないのですが…。8番のソナタなどのドラマチックな感じが引き立てられる感じがして選びました。

モーツァルトはミーントーンが好きだった、というのは、多分ミーントーンオルガンのことなんかも含まれていると思います。

座間:七條さんのモーツァルトのCDを聴かせていただきましたが、フォルテピアノの音色や響きの魅力、録音の良さ、そして恵子さんの表現の力強さや新鮮さにとても感銘を受けました。なんというか、古楽器の印象を一新してくれるようなびっくりする体験でした。

七條:すごく嬉しいです、ありがとうございます!あの録音は、一般に思われているモーツァルトの演奏録音とは随分違う感じのようで、面白いと思ってくださる方が多いです。その反面、すごくいやだ!という方もいます。でも私はその反応がとても嬉しくて、それをきっかけに色々みなさまとお話しさせていただいています。ありがたい限りです。

座間:将来のプロジェクトとして演奏してみたいと思う作曲家の作品などありますか?

七條:今は詳細は未定ですが、フォルテピアノの新しい可能性をもう少し探っていけたらと思っています。

座間:興味深いお話、どうもありがとうございました。
(2023年12月のインタビューより by elsewhere music)​
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七條恵子とユルク・フライ、『Les signes passagers』の録音後、ブルッヘ・コンセルトヘボウにて(2023年4月4日)

「Les signes passagers」は、アムステルダムを拠点とするピアニスト・七條恵子の委嘱により、ユルク・フライが2021年に作曲したソロ・フォルテピアノのための7曲からなるアルバム。2022年2月5日、SLOWフェスティバル開催中にブルッヘ・コンセルトヘボウにて七條による初演が行われた。同年、七條は2022年「ノヴェンバー・ミュージック音楽祭」でも本作を演奏し、その後2023年4月に作曲家立会いのもと、ブルージュ・コンセルトヘボウにてこのアルバムの録音を行った。
​
Jürg Frey website
Keiko Shichijo website

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​​*CD and digital album are available on the label’s website and Bandcamp.
​​(CD release: November 1, 2023)

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